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世界が夢中!フレブルがSNSを席巻する理由

人気犬種ランキング上位を維持し続けるフレンチブルドッグ。その背景にある、都市生活との親和性とライフスタイルの変化を読み解く。

フレブルが世界を席巻する理由

フレブルが持つ“都会とのリズム”

早朝の都心。ビルの谷間に冷たい空気が残る時間帯、足元に落ちる影が淡く揺れる。そんななか、短めの脚をゆるやかに動かし、立ち耳をぴくりと動かすフレンチ・ブルドッグ――その姿には、「都会で犬と暮らす」ことのリアルな可能性がある。

 

この犬種は、筋肉質でありながら体はコンパクト。短毛で抜け毛のケアも比較的シンプル。都市のマンション、狭めの階段、多忙なライフスタイル――そんな暮らしにも自然と馴染むバランス感を持っている。実際、国内の登録データでも、近年フレブルの数は増えており、都市部での飼育適性が評価されている。1

だからこそ。「散歩=運動義務」ではなく、「散歩=日常の延長」。買い物の帰り道、夕暮れの街路、コーヒー片手の立ち寄り──そんな何気ない時間に自然と溶け込む犬として、フレブルは都市にしっくりくる。

フレブルらしい“表情とフォルム”が映える理由

“バットイヤー(コウモリ耳)”、“詰まった鼻”、“短い脚”――フレンチブルのフォルムは、ひと目でそれと分かる他の犬種にはなかなかない、明確で特徴的なシルエット。そしてそれが、写真や動画の中で確かな存在感を持つ。

人が振り返る表情を持つ可能性を示すデータもある。例えば、短吻顔の犬種は「人を見る」回数が多かったという研究も。 映えるルックスと背景(カフェ、街角、バッグなど)との組み合わせが、「犬+暮らし+都市」が交差するヴィジュアルを生む。 写真や動画が、ただの“ペット映え”ではなく、“暮らしのスナップ”になるのだ。

“共存と軽さ”が生む日常のポテンシャル

フレンチブルの魅力は、無理なく暮らしに溶け込める点にある。例えば「長時間の運動はとくに必要ない」「挨拶を交わすように散歩するという穏やかな時間を持てる」。そうした暮らしの選択肢を提示してくれる。 ただし、取り扱いが簡単というわけではない。平たい顔ゆえの呼吸器や熱中症のリスク、皮膚トラブル、消化器・アレルギー疾患、耳・目のトラブルなど、他犬種に比べてケアの必要性が高い。

そこを正しく理解し、「軽さ=手放し」という意味ではなく、「スタイルと配慮を伴った共存」という視点で迎え入れることが重要だ。

日本における人気の傾向

日本では、都市部を中心に「小型・中型で暮らしやすい犬種」が好まれる傾向がある。

2022年のデータによると、フレンチブルドッグは犬全体の約2.9%を占め、トップ10に入っている。2 一般社団法人JKCの2024年の登録頭数でも、フレブルは上位に名をつらねており、都市部での飼育ニーズの高さが数字として裏付けられている。つまり、日本国内でも「小さめで扱いやすい」「都市で暮らしやすい」犬種として、フレブルは一定の支持を得てきている。

また、SNS投稿数の増加や、都市型住宅・共働き世帯の増加といった社会構造の変化も、人気の背景に作用していると考えられる。

SNS/世界的な人気の背景

アメリカの公式登録団体 American Kennel Club(AKC)によれば、2022年にフレンチブルドッグは「最も人気のある純血犬種」の首位に立った。これまで31年もの間首位だったラブラドール・レトリバーを抜いたという記録的な変化だ。 3 人気の背景には、都市生活への適応性、SNSでの露出の拡大、ライフスタイルとしての“犬との共存”が挙げられる。

ただし、人気上昇と同時に「過剰改良」「健康リスク」「ブリーダーの倫理」といった“健康リスク”“過剰改良”“倫理的な繁殖管理”への懸念も再燃している。特に短吻による呼吸器・皮膚の問題は容易に軽視できず、飼う側の理解と責任が求められている。

健康・飼育のリアル — メリットと注意点

この犬種ならではの“良さ”と“抱えやすいリスク”を踏まえて、フレブルとの暮らしを検討する上で考えたいポイントを整理する。

フレブルのメリット(現実的な魅力)

  • コンパクトで飼いやすい体型:
    • フレンチブルドッグは肩高およそ28〜33 cm、体重は一般的に8〜14 kg程度。筋肉質でがっしりとした体つきながら、小型〜中型犬として都市部のマンションや狭めの住居にも比較的フィットする。
  • 運動要求が過度でない
    • 多くのフレブルは激しい運動を必要とせず、散歩や軽めの活動で満足しやすい。忙しい生活のなかでも、犬との暮らしを無理なく取り入れやすい。
  • 手入れが比較的シンプル
    • 短毛で、過度なブラッシングや被毛ケアを要求されにくいため、毎日の生活に馴染みやすい犬種。皮膚や耳など注意点はあるが、毛の世話の“手間”は長毛種に比べて抑えられる。
  • 性格や適応力の柔軟さ
    • 多くのフレブルは人懐こく、社交性があり、子どもや他のペットとも比較的うまくやっていけるとされる。都会での暮らし、家の中の限られたスペースにも馴染みやすい。

注意すべきリスクと配慮点

ただし、フレブルは「かわいい見た目」「小さめの体」「都市向き」という利点と引き換えに、特有の健康リスクや飼育の工夫が必要になる。飼い主としての理解と配慮は欠かせない。

  • 呼吸器系の問題(短頭種気道症候群:BOAS)4
    • 平たい顔、短い鼻、狭い鼻孔といった体型ゆえに、呼吸が苦しくなりやすい。興奮時や暑さ・湿気がある日は過呼吸、いびき、呼吸困難になる可能性が高い。夏の暑さ、湿気、運動のしすぎなどは命に関わるケースもある。
  • 皮膚・耳・目のトラブル5
    • わの多さや皮膚の敏感さから、皮膚炎、外耳炎、アレルギー性の皮膚トラブルなどが起こりやすいとされる。加えて、短頭種ゆえに眼疾患のリスクや、被毛の手入れの際の注意も必要。
  • 関節・運動器の弱さ/肥満の注意
    • 胴や脚の構造的な負担も指摘されており、過剰な運動や体重管理を怠ると、腰や関節、背骨にトラブルを抱えやすい。
  • 医療費・ケアの頻度が高くなる可能性
    • 上記のような病気の可能性が高いため、定期的な獣医師の受診、予防的なケア、室温・湿度管理、食事管理など、注意とコストがかかる。慢性的な管理や手術対応が必要になるケースもある。
  • 気候・生活環境の制約
    • 夏の暑さや湿気、寒冷、長時間の屋外時間、激しい運動は避ける必要があり、飼育環境や生活リズムに合わせた工夫が求められる。

フレブルと暮らすという選択 — 軽やかさと責任のバランス

フレンチブルドッグは、小さな体にゆるやかな佇まいを宿し、都会の風景や日々のリズムにさりげなく溶け込む――それが最大の魅力だ。たとえば、マンションのエレベーター、コンクリートの歩道、夕暮れ時のカフェ前。そうした限られた設えでも、フレブルなら自由に存在できる。

 

一方で、平たい顔ゆえの呼吸の弱さや、皮膚・関節のケアなど、気を配るべき点も多い。 「かわいい」だけでは成立しない現実が、確かに存在する。

けれど、その両方を受け止めて迎えたとき、フレブルとの暮らしは静かに深まる。 散歩の時間、部屋の温度、休日の動線──どれも少しずつ、自分の生活と丁寧に向き合うきっかけになる。

 

要するに、フレブルとの暮らしは“ラグジュアリー”でも“お手軽ペットライフ”でもない。都市という装置の中で、「質感と軽さと責任のバランス」を見つける生き方だ。

もし「軽やかさだけ」「映え」を目的に選ぶなら、そこには必ず“リアル”のチェックが必要になる。逆に、その両立を意識できれば、フレブルは「日常をほんの少しだけ豊かにするパートナー」になり得る。

フレブルと暮らすということは、視界を変えることではなく── 静けさのなかに、日々の時間をひと呼吸だけ丁寧にすること。

Footnotes

  1. 【2025年 最新版】人気犬種ランキングを紹介! JKCが「犬種別犬籍登録頭数」を発表 

  2. Toy Poodles Remain Japan’s Most Popular Dog Breed in 2022 日本での犬種人気ランキング(2022年)にて、フレンチブルドッグが第8位であることも記録。

  3. The French bulldog becomes top dog breed in America … 米国で31年続いたラブラドール・レトリバーの首位を抜き、フレンチブルドッグが首位に躍り出た報道。

  4. French bulldogs have higher risk of 20 common health … フレンチブルドッグが多くの一般的な疾患リスクを抱えているという研究リリース。

  5. Fact Sheet Dog Breed French Bulldog ドイツ語圏サイトによるフレンチブルドッグの犬種概要・健康問題資料。