表参道駅から、少し歩く。
キャットストリートを横切り、坂をのぼると、青い看板が見えてくる。白抜きの文字で「BAGGAGE COFFEE」。たどり着く前から、ここが少し特別な場所であることが伝わってくる。1
この店には、ペレという名の犬がいる。
なぜ、ペレなのか
ペレは、この店の看板犬。ボストン・テリアだ。
その名は、もちろんあの人から来ている。サッカー選手として、ただ一人ワールドカップを3度制した男。15歳でデビューし、通算1281得点を積み上げ、「サッカーの王様」と呼ばれた、ブラジルのペレだ。SNSも巨額のスポンサー契約もない時代に、世界で最初の"グローバルなアスリート"になった人物でもある。2
その王様の名を、自分の犬に贈る。名付け親は、オーナーの竹内隆平さん——小学生でヴェルディJrとして全国を制し、大学時代には埼玉県代表で天皇杯に出場、いまも週に3回はピッチに立つ、生粋のフットボール人である。3
犬にペレと名付ける。その一点に、この人のサッカーへの愛のすべてが表れている。
「BAGGAGE」という名前のこと
店の名前にも、物語がある。
BAGGAGE——手荷物。旅に出るとき、私たちが必ず手にするものだ。そこには旅の楽しみやワクワクが詰まっていて、帰り道には、空いたスペースにお土産が入る。出会いや感動への期待を、鞄ひとつに込めて。その空気感を人で表現できたら、という発想から、この店は生まれた。3
コーヒー、アート、アパレル、音楽。それらをきっかけに、年代も国籍も問わず、さまざまな人が行き交う。旅の途中でふと立ち寄ったカフェのような、そんな高揚感がここにはある。夏のいま、この名前がいっそう似合う。
コーヒーと、ユニフォームと、犬と
扉を抜けると、ひとつの空間にいくつもの世界が同居していることに気づく。
「みんなが集まる秘密基地を作りたかった」と竹内さんは語る。その言葉どおり、コーヒーカウンターの奥にはフットボールヴィンテージショップ「BENE」。ロンドンの地下鉄標識を模した「BENE STREET SE1」のサインの下に、年代物のユニフォームが静かに並ぶ。4
そのかたわらには「Sports Upcycle Labo'」。役目を終えたボールはプランターに、着られなくなったユニフォームは犬服へと姿を変える。スポーツと犬と再生が、ここで自然に結ばれている。1
ここにしかない一着
棚に並ぶオリジナルグッズには、思わず足が止まる。
なかでも目を引くのが、白地にグリーンで刷られたTシャツ。トロフィーのように犬を高々と掲げる選手——その構図は、優勝の歓喜に沸くかつての名場面を想わせる。掲げられているのが犬、というユーモアと敬意の混ぜ方が、実にBAGGAGEらしい。
アニメ調のグラフィック、人気漫画とのコラボ、ヴィンテージ風のカレッジロゴ。どれもサッカーと犬への愛が下地にある。壁にはワールドカップのポスターや日本代表ジャージのビジュアルが貼られ、この夏の高揚がそのまま店の空気になっていた。
愛犬と、扉をくぐる
取材に訪れた日、店の前ではペレが、涼やかなラベンダーのウェアをまとって静かに佇んでいた。凛とした横顔の、堂々たる看板犬ぶりである。
BAGGAGEは犬連れを歓迎している。朝は8時から扉を開け、日本代表・板倉滉選手の専属シェフを務めた岡田駿也さんが考案したプリンも味わえる。1
サッカーが好きで、犬が好きで、おいしいコーヒーが好きな人へ。表参道の坂の途中に、その全部が叶う場所がある。
扉の前で、ペレが待っている。
BAGGAGE COFFEE(BAGGAGE CAFE MARKET)
東京都渋谷区神宮前3丁目/表参道駅A2出口より徒歩7分
営業 8:00〜(要確認)/犬連れOK
