くっつかなくても、そこにいる。
ヴィンテージ風のグラフィックに溶け込んだオーナーたちの愛犬の姿は、主張しすぎず、でも確かに存在する。1月の半ばに開催された、ドッグウェアのセレクトショップPEGION内のPOPUPで出会った〈TO TO TO〉——ファッション業界出身の井上南さんが手がけるオーダー制ウェアが提案するのは、家でも街でも、同じトーンで過ごせる、気を張らない、でも気分の上がる日常着だ。
審美眼に委ねて
PEGIONの白いタイル空間に並ぶ、オフホワイト、グレー、ブラックのTシャツとスウェットのサンプルたち。コンクリートの壁に掛けられたポスターには「Order Graphic Wear」の文字。整然と並ぶオーダーシートの上には、それぞれ異なる犬の写真とアイテム番号が記されている。
「ボディを選んでいただいて、お気に入りの愛犬の写真、プリントカラーやデザインを選んでいただければ、あとは私の方でグラフィックに仕上げます」
柔らかな雰囲気の中に、芯のある言葉選び。井上さんは、ファッションの世界に身を置き磨いてきた感性だからこそ持つ、服としての完成度へのこだわりを語る。
厚手でドライな質感、選ばれたボディ、リブの配色使い、ヴィンテージ加工の絶妙なバランス。メニューをいくつか選んだ後は彼女のセンスに委ねることで、唯一無二のオートクチュールが完成する。選択肢が魅力的なので迷われるゲストも大勢、その場合はオーナー自らヒアリングを行いサイズからカラー、デザインの細部まで一緒に検討できる。大量生産ではなく、オーダー制という形で、誰かの大切な一枚を作る——その姿勢が、〈TO TO TO〉の服に宿っている。
デザインも6パターンの中から気に入ったレイアウトを選ぶ
選べるボディは、Tシャツ、リンガーTシャツ、ロンT、オーバーサイズロンT、クルーネックスウェット、フーディの6種類。カラーはニュートラルなトーンで統一され、どんなワードローブにも馴染む。送られてくる愛犬の写真から、井上さんがその子の表情や空気感を読み取り、グラフィックに落とし込む。プリントカラーも、写真の雰囲気やボディの色に合わせて提案、もしくは要望を聞いてデザインに落とし込む。
完全なカスタマイズではない。むしろ、彼女のディレクションを信頼して委ねるからこそ、ファッショナブルな一枚として成立する。
日常に馴染むという基準
部屋着やパジャマになってしまいがちな"うちの子グッズ"を、もっと身近に。普段着としてファッショナブルに着られる、うちの子ウェアがあったら——そう思ったのがきっかけだという。
「どんなコーディネートに合わせる服になるのか、想像しながら、ひとつひとつグラフィックを制作しています」
Tシャツやスウェットといったボディアイテムは、生地がしっかり厚めでドライ感があり、シティでポップなファッションシーンにフィットするものという基準で厳選されている。細部に宿る審美眼が、この服を「部屋着」ではなく「ワードローブ」として成立させている。
家でも街でも、同じトーン。 オフホワイトのスウェット、リブにグリーンの配色を効かせたデザイン。背面には、その子の表情が複数配置されている。笑顔、真顔、あくび——日常の中で見せるさまざまな瞬間が、ヴィンテージ加工で主張を抑えられ、グラフィックとして溶け込んでいる。 厚手でドライな質感は、部屋着に見えない。ソファに座り、彼が少し離れた場所でまどろんでいる——そんな朝でも、この服は成立する。犬の毛がついても気にならない色味を選んでいるのは、気を張らずに過ごすため。くっつかなくても、そこにいる。
表情の違う相棒をシンプルに並べたストリートライクなデザイン
街に出るときは、Tシャツに変える。遠目にはただのヴィンテージTに見える。でも近づけば、そこには「その子」がいる。絶妙なカラーインクで刷られたシルエットは、光の角度によって浮かび上がり、また溶けていく。 デニムに合わせて、スニーカーを履く。
カフェに入るとき、公園を歩くとき、この一枚が「犬と暮らす人」を主張しすぎない。ただ、服の一部として、彼がそこにいる。甘くない距離感で、日常に寄り添う。
一押しのあのショットと愛犬の名前を入れてインパクトある一枚にも。
おそろいではなく、そこにいる存在として
「たくさん売ることを目的にしないファッション」——ブランドのコンセプトとしてのサスティナビリティ。
すでに世の中には洋服が溢れている。大量生産大量消費が大量廃棄につながり、新品のまま捨てられる商品も生まれている。それでも、ファッションは素晴らしい。わくわくしたり、力が湧いたり。だからこそ、健康的で社会的なファッションのあり方を考えたい——そう語る彼女が選んだのが、実の弟の飼い猫からインスピレーションを得て、オーダー制という形だった。
サンプルの紹介をしながらオーダーのヒアリングを行う
廃棄は生まれない。顔の見える誰かに直接届けて、愛着のわく大切な一着になる。そんな気持ちを込めたブランド名が「TO TO TO」。 グラフィックに溶かされた「その子」は、おそろいでもなく、ペアルックでもなく、ただ服の一部として、そこにいる。
愛を表現する方法は、甘い装飾やおそろいのアイテムだけじゃない。一緒にいることを、どう表現するか。いつものワードローブにそっと馴染み、この間届いた来春のトレンドパンツとのコーディネートにも機能する服。距離を保てるからこそ、関係性はもっと自由になる。〈TO TO TO〉が描くのは、くっつかなくても成立する、対等なパートナーシップだ。
取材協力:PEGION
