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ゴール裏には、犬のサポーターもいる。

トッテナム・ホットスパーが始めた「Tottenham Hotspaw」は、犬を飼うサポーターのための公式サポーターズクラブだ。応援するのは、人間だけじゃない。

スタジアムのスタンドに立つ犬

世界中がワールドカップに熱狂するたび、私たちはピッチの上に目を向ける。けれどサッカーの物語は、いつも選手だけのものではない。クラブの歴史を変えた犬。スタジアムで家族を見つけた犬。名前になった犬。フットボールのそばで生きた犬たちを通して、その国らしさを見つめる連載。犬は、ゴール裏にいる。

 

一匹の迷子犬が、クラブの神話になることがある。ピッチに迷い込んだ犬が、その日いちばん愛されることもある。では、スタジアムの外で、家族と一緒に試合を見ている犬たちはどうだろう。

トッテナム・ホットスパーが始めた「Tottenham Hotspaw」は、犬を飼うサポーターのための公式サポーターズクラブだ。応援するのは、人間だけじゃない。そう言うみたいに、犬たちはマッチデープログラムやスタジアムのスクリーンに登場する。

応援は、暮らしの中にある

イングランドのフットボールには、声がある。チャント、拍手、ため息、ブーイング。勝った夜にはパブの外まで歌があふれ、負けた朝にも、誰かは必ず昨日の試合について話している。クラブを応援するということは、ただ90分を観ることではない。週末の予定であり、家族の会話であり、暮らしの中にひとつの色を持つことだ。

サポーターという言葉には、少し不思議な広がりがある。スタジアムに通う人も、テレビの前で声を上げる人も、祖父から同じクラブを受け継いだ子どもも、みんなその輪の中にいる。クラブは、ピッチの上だけではなく、それぞれの家の中にもある。

では、その隣で毎週末の空気を一緒に浴びている犬はどうだろう。ゴールが決まった瞬間にソファが揺れることも、負けた夜の家が少し静かになることも、犬たちはきっと知っている。白とネイビーのシャツが出てくる日、テレビの前に人が集まる日、散歩の時間が少しずれる日。犬は試合結果を理解しないかもしれない。けれど、家族がクラブを愛していることは、誰より近くで知っている。

Tottenham Hotspawという発明

2024年6月27日、トッテナム・ホットスパーは「Tottenham Hotspaw」を発表した。クラブによれば、犬を飼うサポーターが愛犬と一緒に参加できる、フットボールクラブ初の公式サポーターズクラブだという。メンバーシップは無料で、ひとりのサポーターが複数の犬を登録することもできる。登録した犬たちには、試合日のマッチデープログラムや、スタジアムの大型スクリーンに登場するチャンスがある。さらに、All Dogs Matterを支援する募金活動やイベントにも参加できる。1

名前はHotspurとpawをかけた、あまりにも素直で、少し笑ってしまう言葉遊び。けれどその奥にあるのは、単なるかわいい企画ではない。Tottenham Hotspawは、犬をサポーターの暮らしにいる家族として、そのままクラブの輪の中へ招き入れている。

最初のメンバーとして紹介されたのは、生涯のスパーズファンであるLeah Kreitzman(リア・クライツマン)と、彼女の4歳のスタッフォードシャー・ブル・テリア、Apollo(アポロ)だった。リアは、犬とフットボールクラブとの絆を結びつけられること、そしてAll Dogs Matterの活動を支援できることへの喜びを語っている。犬を愛することと、クラブを愛すること。そのふたつを、同じ生活の中で扱うこと。

Dog of the Match、小さな栄誉

Tottenham Hotspawの象徴的な取り組みが、「Dog of the Match」だ。トッテナムはホームゲームごとにDog of the Matchを紹介している。メンバーはFacebookグループに愛犬の写真を投稿し、その中から選ばれた犬が、キックオフ前のスタジアムスクリーンやマッチデープログラムに登場する。

2025/26シーズン、AFCボーンマス戦のDog of the Matchに選ばれたのは、12歳のビーグル、Wallace(ウォレス)だった。眠っていないときは庭でボール遊びをし、家族がスタンドで応援していない日にはテレビでスパーズを観る犬として紹介されている。たった数行のプロフィールなのに、そこにはひとつの家庭の週末が見える。庭に転がるボール。テレビの前のざわめき。スタジアムへ出かけていく家族を見送る犬。2

Dog of the Matchという響きは、少し冗談みたいで、ちゃんと愛がある。Man of the Matchでも、Player of the Matchでもない。その日クラブの風景に加わる犬。イングランドのフットボールが生活の中にあるものだとしたら、こういう小さな栄誉はとても自然に見えてくる。

その視線は、保護犬にも向けられる

この取り組みがいいのは、ただ犬をかわいく見せるためだけに終わっていないところだ。Dog of the Matchの隣では、All Dogs Matterの保護犬たちも紹介される。All Dogs Matterは2009年に設立された、ロンドン周辺を拠点とする犬のレスキュー/リホーミング団体。2024年には、350頭の犬を保護し、新しい飼い主へつないだという。3

2025年1月のレスター・シティ戦では、里親を探していた2歳のフレンチブルドッグ、Zac(ザック)が紹介された。ザックは迷子犬として保護され、ブル系犬種に慣れた家族と、庭のある家を必要としている犬だった。何万人もの視線が集まる場所で、まだ家族に出会っていない犬の名前が呼ばれる。そこに大げさな演出はない。けれど、静かな力がある。4

フットボールクラブは、巨大な拡声器を持っている。その力を、家族を待つ犬たちへ少しだけ向ける。Tottenham Hotspawが単なるファンサービスで終わらないのは、その視線の使い方にある。

なぜ、それがイングランドらしいのか

イングランドのクラブは、しばしば地域と結びつけて語られる。祖父が好きだったチームを、親が好きになり、子どもがその色のマフラーを巻く。家族の中にクラブがあり、街の中にクラブがあり、週末の習慣の中にクラブがある。

だから犬がそこに加わることは、突飛なようでいて、実はとても自然なことなのかもしれない。犬はすでに、人間の暮らしの中でクラブを浴びている。勝った日の明るさも、負けた日の沈黙も、家族が身につける色も。犬はフットボールを理解しているわけではない。けれどフットボールが家族にもたらす空気を、身体で知っている。

Tottenham Hotspawは、犬をスタジアムに連れてくるための制度ではない。むしろ、スタジアムの外にすでにあったものを、クラブが見つけた取り組みだ。ソファの上にいる犬。テレビの前で眠る犬。家族の遠征を見送る犬。保護施設で新しい名前を待つ犬。ゴール裏の熱狂は、スタンドだけで完結していない。その少し後ろには、いつも生活がある。

イングランドでは、応援は血筋のように受け継がれることがある。けれど時々、それはリードの先にもつながっている。ゴール裏には、人間のサポーターがいる。そしてその少し後ろ、家のソファや散歩道や保護施設の写真の中に、犬のサポーターもいる。

犬は、ゴール裏にいる。

連載「犬は、ゴール裏にいる。」——ワールドカップの夏、各国の犬とフットボールをめぐる。

Footnotes

  1. Club launches first ever official supporters' club for dog-owners | Tottenham Hotspur

  2. Dog of the Match | Spurs vs AFC Bournemouth | Tottenham Hotspur

  3. About Us | All Dogs Matter

  4. Dog of the Match | Leicester City | Tottenham Hotspur