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一匹の迷子犬が、マンチェスター・ユナイテッドを救った。

マンチェスター・ユナイテッドがまだNewton Heathだった頃、クラブの危機のそばに一匹のセントバーナードがいた。名前はMajor。犬がクラブの未来を連れて帰ってきた物語。

マンチェスター・ユナイテッド編、フットボールのそばにいた犬Majorのイメージビジュアル

世界中がワールドカップに熱狂するたび、私たちはピッチの上に目を向ける。けれどサッカーの物語は、いつも選手だけのものではない。クラブの歴史を変えた犬。スタジアムで家族を見つけた犬。名前になった犬。フットボールのそばで生きた犬たちを通して、その国らしさを見つめる連載。犬は、ゴール裏にいる。

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世界で最も有名なフットボールクラブのひとつは、一匹のセントバーナードから始まったと言われている。名前はMajor(メジャー)。大きな体に、穏やかな顔。首には、誰かの善意を受け止めるための小さな募金箱。彼はゴールを決めたわけでも、トロフィーを掲げたわけでもない。それでもメジャーは、マンチェスター・ユナイテッドの物語に残っている。1

フットボールのそばにいた犬

まだマンチェスター・ユナイテッドという名前がなかった頃、そのクラブはNewton Heathと呼ばれていた。鉄道員たちのチームとして1878年に始まり、やがてフットボールリーグに参加するようになるが、20世紀の入口でクラブは深刻な財政難に陥っていた。いま私たちが知る赤いユニフォームも、オールド・トラッフォードの巨大なスタンドも、世界中のサポーターも、まだそこにはない。あるのは、存続のためにお金を集めなければならない小さなクラブと、そのクラブをどうにか守ろうとする人たちだった。2

その中心にいたのが、Harry Stafford(ハリー・スタフォード)。Newton Heathのキャプテンであり、メジャーの飼い主だった。メジャーはただ家で待っている犬ではなかった。試合の日には人々の間を歩き、募金箱をつけてクラブのためのお金を集めたと伝えられている。サポーターの足元を、大きなセントバーナードがゆっくり歩く。誰かが立ち止まり、彼の首元に硬貨を入れる。その音をメジャーが理解していたかはわからない。ただ彼は、クラブの危機のそばにいた。3

犬は、ときどき人間の物語に勝手に巻き込まれる。彼らは契約書を読まないし、順位表にも興味がない。けれど人間が大切にしているもののそばに、当たり前のように座っている。メジャーもきっとそうだった。彼にとっては、クラブを救うことより、スタフォードのそばにいることの方が大切だったはずだ。

迷子になったMajor

1901年、Newton Heathは資金集めのためにマンチェスターのセント・ジェームズホールで大きなバザーを開いた。目的は、クラブを破産から救うこと。けれど期待したほど人は集まらず、会場の熱気はクラブの不安を消すほどではなかった。そして、そのバザーの最中にメジャーが姿を消した。3

クラブの資金繰りも苦しい。未来も見えない。そんな時に、スタフォードは自分の犬まで失った。資料には、彼がメジャーを探したことが残されている。いまのようにSNSで迷子犬の投稿が拡散される時代ではない。誰かの目撃情報を頼りに、人づてに探すしかない。煙と雨の匂いが残るマンチェスターの街を、大きな犬の行方を追って歩く。そこにあるのは、クラブ史というより、飼い主と犬の話だ。

やがてメジャーは、地元の裕福な醸造業者John Henry Davis(ジョン・ヘンリー・デイヴィス)のもとにたどり着いたとされる。デイヴィスはその犬を気に入り、娘のために譲ってほしいと望んだ。スタフォードは最初、メジャーを手放すことを拒んだとも言われている。当然だと思う。クラブのために募金箱を背負って歩いた犬は、彼にとってただの犬ではなかった。家族であり、相棒であり、苦しい時期を一緒に歩いた存在だった。4

けれど、この出会いがNewton Heathの未来を変えていく。メジャーをめぐってスタフォードとデイヴィスは言葉を交わし、デイヴィスはクラブの窮状を知る。やがて彼はNewton Heathを支える側に回り、クラブは救済へ向かう。1902年、Newton HeathはManchester Unitedという新しい名前を得た。つまりメジャーは、ただ迷子になったのではない。彼は知らない街角へ消えたあと、飼い主のもとに、クラブの未来を連れて帰ってきた。24

犬が救った、という言い方

もちろん、現実にクラブを救ったのはデイヴィスの資金であり、スタフォードたち人間の交渉であり、当時の関係者たちの決断だった。メジャーが銀行口座を開いたわけでも、会議で発言したわけでもない。それでもこの話が「犬がマンチェスター・ユナイテッドを救った」と語られてきたことには、犬の物語としての美しさがある。1

犬は、人間が思っているほど人間社会の事情に興味がない。けれど、しばしば人間同士を出会わせる。散歩道で会話が生まれる。迷子になれば、誰かが探し、誰かが保護し、知らない人同士が同じ犬の名前を口にする。メジャーの話も、その大きな版のように見える。クラブの危機、飼い主の焦り、ひとりの実業家の娘の願い。その中心にいたのは、首元に募金箱をつけて歩いていた一匹のセントバーナードだった。

この物語でいちばん愛おしいのは、メジャーが偉業を成し遂げようとしていないことだ。彼はただ歩き、迷い、見つけられた。人間たちはその偶然に意味を見つけ、そこからクラブの歴史を語り始めた。犬はいつもそうだ。こちらが勝手に背負わせた願いを、何も知らない顔で受け止めている。

その名は残った

いまのマンチェスター・ユナイテッドを見れば、メジャーの姿はほとんど見えない。赤いユニフォーム、巨大なスタジアム、世界中のスポンサー、数えきれないほどのタイトル。クラブの物語はあまりにも大きくなった。けれど、その始まりのほうを静かにたどると、そこにはスタフォードのそばにいたセントバーナードがいる。

メジャーは選手ではなかった。監督でも、会長でも、伝説のストライカーでもなかった。けれど彼は、クラブがまだ小さく、弱く、消えてしまうかもしれなかった時代を歩いていた。人々の足元で募金箱を揺らし、ある日いなくなり、思いがけない場所で見つかった。そしてその偶然が、ひとつのクラブの名前を未来へ押し出した。

フットボールの歴史は、ときどきあまりに人間中心に語られる。誰が勝ったか。誰が決めたか。誰が所有したか。けれど本当は、その周りにもたくさんの命がいる。歓声に驚いた犬、飼い主を待つ犬、ゴール裏の匂いを嗅ぐ犬。メジャーは、そのことを思い出させてくれる。クラブの歴史を変えたのは、いつも英雄だけではない。

一匹の迷子犬が、マンチェスター・ユナイテッドを救った。そう言い切るには、少し物語ができすぎているのかもしれない。けれど犬と暮らす人なら知っている。犬は、ときどき人間の予定を軽々と超えていく。そして気づけば、私たちの人生の大事な場面に、何も知らない顔で座っている。

メジャーもきっと、そういう犬だった。

連載「犬は、ゴール裏にいる。」——ワールドカップの夏、各国の犬とフットボールをめぐる。

Footnotes

  1. How a dog saved Manchester United|Manchester United 2

  2. History|Manchester United Investor Relations 2

  3. デイヴィス|Spartacus Educational 2

  4. Saving Manchester United|Tutbury Museum 2