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ロベルトは、時間を止めにきた。

アルゼンチンのサッカー試合、ウニオン対ヒムナシアで犬のロベルトがピッチに乱入。試合を一時止め、監督の冗談まで生んだ一匹の犬の物語。

Roberto the dog interrupting an Argentina football match between Union and Gimnasia

アルゼンチンのサッカーの試合中、犬のRoberto(ロベルト)がピッチに乱入した。Unión de Santa Fe(ウニオン・デ・サンタフェ)対Gimnasia La Plata(ヒムナシア・ラ・プラタ)の終盤、芝生に寝そべった一匹の犬は、勝敗よりも不思議な時間を残していった。

世界中がワールドカップに熱狂するたび、私たちはピッチの上に目を向ける。けれどサッカーの物語は、いつも選手だけのものではない。クラブの歴史を変えた犬。スタジアムで家族を見つけた犬。名前になった犬。フットボールのそばで生きた犬たちを通して、その国らしさを見つめる連載。犬は、ゴール裏にいる。

アルゼンチンでは、残り時間まで物語になる

アルゼンチンでサッカーを見ると、試合の終盤だけ時間の密度が変わるように感じる。勝っているチームにとって、時計の針は少しだけ遅く進む。追いかけるチームにとって、すべての笛は早すぎる。スタンドは祈り、ベンチは怒り、ピッチの上では、一つのクリアも、一つのファウルも、人生の分かれ道のように扱われる。

だからこそ、残り数分に起きることは、ただの出来事では終わらない。誰かが倒れれば時間稼ぎに見える。ボールが少し遅れて戻れば、意図があるように見える。相手の選手が靴紐を結ぶだけで、そこに戦術の匂いを感じてしまう。フットボールに本気であるということは、ときどき世界を少し疑い深く見ることでもある。

2018年9月30日、その疑い深く、情熱的で、どこか滑稽でもある時間の中に、一匹の犬が入ってきた。名前はRoberto(ロベルト)。彼はボールを追いかけに来たわけではなかった。まして、どちらかのチームを勝たせるために来たわけでもない。ただ、ピッチに入り、芝生の上に体を投げ出した。人間たちが勝ち点を数えていた場所で、犬だけが別の時計を持っていた。

ロベルトという犬がピッチに乱入した日

舞台はSuperliga Argentina(スーペルリーガ・アルヘンティーナ)。ホームのウニオン・デ・サンタフェは、ヒムナシア・ラ・プラタをEstadio 15 de Abril(エスタディオ・キンセ・デ・アブリル)に迎えていた。試合は前半40分、Diego Zabala(ディエゴ・サバラ)のゴールでウニオンが先制する。右からのクロスに反応し、ボレーで決めたその一点が、試合のスコアを1-0にした。1

そのまま時間は進んでいく。ヒムナシアは同点を探し、ウニオンはリードを守る。1-0というスコアは、サッカーの中でも特に神経に触れる数字だ。勝っている側は失いたくない。負けている側は、まだ何かが起きると信じたい。終盤のピッチには、そういう緊張が静かに溜まっていく。

そしてアディショナルタイム、ロベルトが現れた。彼は勢いよく走り回るタイプの侵入者ではなかった。芝生に入り、転がり、撫でられるのを待つようにして、そこにいた。後半46分ごろにロベルトがピッチに入り、芝生に寝そべり、選手たちに撫でられたと報じられている。試合は一時中断され、最後はヒムナシア・ラ・プラタのJan Carlos Hurtado(ヤン・カルロス・ウルタード)がロベルトを抱き上げ、ピッチの外へ連れていった。2

ウルタードが抱き上げたもの

ロベルトをピッチの外へ連れていったのは、追いつきたい側の選手だった。ヤン・カルロス・ウルタードはヒムナシア・ラ・プラタのフォワードで、この試合では同点を探す側にいた。だから、本当なら急ぎたかったのはヒムナシアの方だったはずだ。けれどウルタードは、怒るより先にロベルトへ近づき、撫で、抱き上げた。

犬を抱く姿には、試合の文脈とは別のやわらかさがある。ユニフォームを着た選手の腕の中に、試合のルールを知らない生きものがいる。スタンドの苛立ちも、ベンチの計算も、その瞬間だけ少し遠くなる。ロベルトは何も説明しない。ただ抱き上げられ、外へ運ばれていく。数十秒後、試合は再開する。けれど一度ゆるんだ空気は、もう完全には元に戻らない。

この場面がただの珍事で終わらなかったのは、そこにアルゼンチンらしい会話が続いたからだ。犬が入った。試合が止まった。では、あれは偶然だったのか。誰かの仕込みだったのか。そんなはずはないとわかっていながら、そんなふうに疑ってしまうところまで含めて、この国のサッカーは物語になる。

Pedro Troglio(ペドロ・トログリオ)は、犬にまで戦術を見た

試合後、ヒムナシア・ラ・プラタの監督だったPedro Troglio(ペドロ・トログリオ)は、ロベルトの乱入について皮肉を口にした。トログリオは「その犬は入るように訓練されていた」という趣旨の冗談を語り、ヒムナシアのいい時間帯を中断されたと見ていたことを伝えている。3

もちろん、ロベルトが本当に訓練されていたわけではない。少なくとも、そう考える方がずっと自然だ。けれど、そう言いたくなる気持ちはわかる。負けている側にとって、アディショナルタイムの中断は痛い。たった数十秒でも、攻撃のリズムは切れる。気持ちは冷え、相手は息をつく。サッカーにおける時間は、時計に表示される数字よりもずっと複雑だ。

トログリオの言葉が面白いのは、犬を責めているようで、実はサッカーそのものの人間くささを露わにしているところだ。勝敗が近すぎる場所では、偶然も作戦に見える。野良犬の足取りにまで、誰かの意図を読んでしまう。ロベルトはただ寝そべっただけなのに、人間たちはそこに戦術を見つけてしまった。

ウニオンは、十二人で戦ったのか

後日、この出来事にはさらに小さな尾ひれがついた。ウニオン・デ・サンタフェの監督Leonardo Madelón(レオナルド・マデロン)は、トログリオに謝ったと語り、犬の乱入はチームの計画ではないと説明した。だが一方で、得点者のディエゴ・サバラは「今日は12人でプレーした」と冗談を言ったという。4

この一言が、とてもアルゼンチンらしい。謝罪があり、疑いがあり、冗談がある。誰も本気で犬を選手登録したとは思っていない。けれど、そう言いたくなる余白がある。フットボールは、記録だけなら1-0で終わる。得点者はディエゴ・サバラ、勝者はウニオン・デ・サンタフェ。それで十分なはずなのに、人はそこにロベルトを加えたくなる。

犬はスコアボードに載らない。公式記録にも、おそらく名前は残らない。それでも、その試合を思い出すとき、多くの人はゴールと同じくらい、芝生に寝そべった犬のことを思い出す。ロベルトはアシストをしていない。ゴールも決めていない。ただ、試合の時間を一度ほどいた。それだけで、彼はその日の物語の中に入ってしまった。

ロベルトは、サッカーを知らない

ロベルトは、サッカーを知らない。1-0の重みも、アディショナルタイムの焦りも、スーペルリーガ・アルヘンティーナの順位表も知らない。ウニオン・デ・サンタフェがホームで勝ちたかったことも、ヒムナシア・ラ・プラタが最後まで追いつきたかったことも、トログリオが苛立っていたことも、きっと知らない。

けれど、知らないからこそできることがある。犬は、人間が勝手に作った緊張の外からやってくる。勝ち点も、順位も、因縁も持たずに、ただ芝生の上へ入ってくる。そこで寝そべる。撫でられる。抱き上げられる。その何でもなさが、フットボールに熱くなりすぎた人間たちの時間を、一瞬だけ別のものに変える。

ロベルトの乱入は、犬が救われた話ではない。誰かの家族になった美談でもない。彼はもっと不思議な役割を引き受けた。試合を止め、空気を変え、監督に疑われ、選手に笑われ、翌日のニュースになった。つまり、ロベルトはその日の「登場人物」になったのだ。

その日いちばん愛されたのは、選手ではなかった

アルゼンチンのサッカーは、いつも少し人間くさい。疑い深くて、情があり、すぐに熱くなり、すぐに物語にする。ロベルトが特別だったのは、かわいかったからだけではない。勝敗に取りつかれた時間の中に、勝敗の外からやってきたからだ。ボールを追わず、ゴールを見ず、時計も気にせず、ただ芝生に寝そべる。その姿は、試合の意味を一度ほどいてしまう。

ボリビアのピッチに現れた犬は、人の腕の中で家族になった。アルゼンチンのピッチに現れたロベルトは、家族になる物語ではなく、試合そのものの登場人物になった。救われた犬ではなく、時間を止めた犬。誰かに飼われるためではなく、そこにいた全員の記憶に少しだけ居座るために、芝生の上へやってきた犬。

その日いちばん愛されたのは、選手ではなかったのかもしれない。少なくとも、その数十秒だけは、誰もボールを見ていなかった。観客も、選手も、カメラも、ロベルトを見ていた。サッカーを知らない犬が、サッカーに本気になりすぎた人間たちの視線を奪っていた。

ロベルトは、時間を止めにきた。もちろん、本人にそんなつもりはない。けれどフットボールのそばで起きる犬の物語は、いつも少しだけ人間の思惑を超えていく。犬は、ゴール裏にいる。ときどき、ピッチの真ん中にもいる。

連載「犬は、ゴール裏にいる。」——ワールドカップの夏、各国の犬とフットボールをめぐる。

Footnotes

  1. Unión se hizo fuerte de local y le ganó a Gimnasia de La Plata | Infobae

  2. La imagen más tierna de la fecha: el perro "Roberto" entró a la cancha e interrumpió el partido entre Unión y Gimnasia | Infobae

  3. El jugador menos pensado: un perro interrumpió Gimnasia-Unión para que lo mimen | TN

  4. Desopilante cruce de declaraciones: el detrás de escena del perro que se robó la atención en Unión-Gimnasia | Infobae