日本が、沸いている。
ワールドカップ・グループステージ。日本代表はチュニジアに4-0で快勝し、1試合で4得点という最多記録を打ち立てた。グループステージでの白星は、2002年以来24年ぶりのことだという。決勝トーナメント進出をかけた次の一戦に、いやがうえにも期待は高まっている。1
深夜、テレビの前で声を上げ、翌朝少し寝不足の顔で散歩に出る。そんな夏を過ごしている人も、少なくないだろう。
ふと思う。このサッカー観戦の熱狂のなかに、愛犬の居場所はあるのだろうか。
ワールドカップのスタジアムに、犬は入れない
当然のことだが、ワールドカップのスタジアムに、一般の犬は入れない。認定された介助犬だけが例外だ。2
理由は明白で、彼らのためでもある。何万もの観客、突然の歓声、花火、チャント。人間の何倍も耳のいい彼らにとって、あの音量は時に暴力的ですらある。私たちが熱狂で我を忘れるその場所は、彼らにとっては逃げ場のない轟音の檻になりうる。
連れて行かないことが、愛情のかたちでもある。
けれど、街には居場所がある
スタジアムの外に出れば、風景は変わる。
サッカーが文化として根づいた国々では、試合のある日、犬は当たり前のように街にいる。パブのテラス、広場の大型スクリーンの足元、公園のパブリックビューイング。人々が抱き合い、肩を組むその傍らで、彼らはのんびり寝そべっている。
サッカーは、もともと「みんなで観る」ものだ。ドイツではソーセージとビール、アルゼンチンではチョリパン、スペインでは試合中にひまわりの種をつまむ。国ごとに作法は違えど、共通しているのは「ひとりでは観ない」こと。その輪のなかに、犬がいる国は多い。3
勝っても負けても、隣に誰かがいる。その「誰か」が、四つ足の家族であってもいい。
寄り添う時代へ
時代も、少しずつ動いている。
象徴的なのが、アメリカでの出来事だ。サッカー連盟(U.S. Soccer)は2025年、ペットフードのPurinaを初の「公式ペットケアパートナー」に迎えた。2026年のワールドカップ、そして2028年のロサンゼルス五輪を見据えた、2030年までの提携だ。4
これは単なるスポンサー契約ではない。対韓国戦では、犬と一緒に観戦できるスタジアム内の空間「Purina Club」が初めて設けられた。さらに対日本戦のハーフタイムには、犬たちのアジリティショー「Incredible Dog Team」が登場している。
「観戦」という体験のなかに、犬の存在が編み込まれ始めている。家族の一員としての犬を、試合の日常にどう迎え入れるか——その問いに、サッカー界が本気で向き合い始めた証だろう。
スポーツは、勝敗だけのものではない。誰と、どんな時間を分け合うか。
深夜のソファで
とはいえ、私たちの多くにとって、観戦の現場はもっと身近だ。
日本から地球の裏側の試合を観るなら、時差の関係で、きっと夜中になる。リビングの灯りを落とし、音量を控えめにして、画面に見入る。気づけば、彼がいつのまにか隣に来て、丸くなっている。
歓声を上げたい瞬間も、彼を起こさないよう、ぐっと声を呑む。そういう夜のサッカーも、悪くない。むしろ、いちばん幸福な観戦かもしれない。
世界が熱狂するその同じ夜に、ここには小さな、静かな熱がある。
愛犬と観る夏が、今年もまた来ている。
