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クラブの名前は、犬だった。

メキシコのサッカークラブ、クラブ・ティフアナの愛称「ショロス(Xolos)」。その名はメキシコ原産の犬ショロイツクインツレに由来する。犬がマスコットではなく、クラブそのものになった物語。

メキシコのサッカークラブClub Tijuana Xolosの名前の由来となった犬ショロイツクインツレ

メキシコのサッカークラブ、クラブ・ティフアナ(Club Tijuana)の愛称は「ショロス(Xolos)」。その名は、メキシコ原産の犬・ショロイツクインツレ(Xoloitzcuintle)に由来する。犬はマスコットではなく、クラブの名前になった。ティフアナという国境の街で、サッカーと犬と土地の記憶が重なる。1

世界中がワールドカップに熱狂するたび、私たちはピッチの上に目を向ける。けれどサッカーの物語は、いつも選手だけのものではない。クラブの歴史を変えた犬。スタジアムで家族を見つけた犬。名前になった犬。フットボールのそばで生きた犬たちを通して、その国らしさを見つめる連載。犬は、ゴール裏にいる。

メキシコでは、犬は境界を越えていく

ショロイツクインツレ。日本語で書いても、まだ少しだけ舌が追いつかない。英語ではXoloitzcuintle、あるいはXoloitzcuintli。通称はショロ(Xolo)。毛のない犬として知られることも多いけれど、実際にはヘアレスだけでなく、被毛のあるコーテッド・バラエティーもいる。サイズもひとつではない。American Kennel Clubはこの犬を、約3,000年の歴史を持つ古代アステカの犬として紹介している。2

ジャパンケネルクラブの犬種紹介では、ショロイツクインツレはメキシコ原産の犬とされる。ナワトル語の「Xoloitzcuintli」、またはスペイン語の「Xoloitzcuintle」は、神ショロトル(Xolotl)の使いとみなされ、その犬名もこの神の名に由来すると説明されている。さらに、この犬の務めは、死んだ者の魂をその最終到達地まで導くことだったとも書かれている。3

だからこの犬は、ただ珍しい犬種というだけではない。家の中にいる犬でありながら、神話のそばにもいる。生きている人間の横にいながら、死者の旅にも寄り添う。こちら側とあちら側、日常と神話、人間と土地の記憶。その境界を、ショロは静かに歩いてきた。

フットボールのクラブがこの犬の名前を持つとき、それは単なる動物モチーフではなくなる。赤と黒のユニフォームの奥に、古代から続くメキシコの時間がうっすらと重なる。かわいい、だけでは足りない。強い、だけでも足りない。ショロイツクインツレという名前には、土地の記憶がある。

Club Tijuana Xolosとは。犬の名前を持つメキシコのクラブ

クラブ・ティフアナの正式名称は、Club Tijuana Xoloitzcuintles de Caliente。通称、ショロス(Xolos)。Xolosとは、クラブ・ティフアナの愛称であり、メキシコ原産犬ショロイツクインツレに由来する名前だ。

クラブ公式のヒストリーによれば、Club Tijuana Xoloitzcuintles de Calienteは2007年に創設された。そこから4年後の2011年には、メキシコのトップディビジョンへ昇格している。さらに公式サイトは、クラブを「国境のプロフットボールチーム」として位置づける。ティフアナは、メキシコ北西部、アメリカとの国境に接する街だ。メキシコであり、同時にアメリカの気配を日常的に感じる場所。人も、言葉も、文化も、常に行き来する。1

クラブは若い。長い歴史を持つ名門が、何十年もの記憶を背負っているのとは少し違う。ショロスは、新しい街の熱を、そのままクラブの速度にしたようなチームだった。けれど新しいクラブが選んだ名前は、古かった。ショロイツクインツレ。古代からメキシコにいた犬の名前。ここが美しい。

ティフアナのような境界の街に、ただ新しいだけの名前は似合わなかったのかもしれない。国境のそばで生まれたクラブは、自分たちがどこから来たのかを示すために、メキシコの深いところにいる犬を呼んだ。クラブ名は、単なるブランドではない。ときどきそれは、街が自分自身を説明するための言葉になる。

犬は、エンブレムになった

エスタディオ・カリエンテ(Estadio Caliente)は、クラブ・ティフアナのホームスタジアムだ。クラブ公式サイトでは、この場所が「ショロイツクインツレの家」として紹介されている。現在の収容人数は27,333人。試合の日、その周辺は「Territorio Xoloitzcuintle」として、フットボールと家族の空気に包まれるという。ここでも犬は、飾りではない。スタジアムの場所そのものを名づけている。1

フットボールの世界では、動物はよく使われる。ライオン、鷲、狼、虎。力や速さを示すための記号として、エンブレムに置かれることは珍しくない。けれどショロスの場合、犬は強さの比喩である前に、土地の言葉である。Xoloitzcuintleという長い名前が、Xolosと短く呼ばれる。呼びやすくなった瞬間、神話の犬はスタジアムのチャントにも、子どものユニフォームにも、街角のステッカーにも降りてくる。

犬がクラブに添えられているのではない。クラブが、犬の名前を借りている。そこが、このメキシコ編の面白さだ。どこかの試合で犬が迷い込んだわけでもない。ある選手が犬を拾ったわけでもない。大会のために犬のキャラクターが作られたわけでもない。ショロは、最初からクラブの名前の中にいた。

なぜ、それがメキシコらしいのか

メキシコには、古いものと新しいものが同じテーブルに並ぶ強さがある。死者の日の祝祭がそうであるように、死は暗いものとしてだけ扱われない。色があり、花があり、家族があり、記憶がある。ショロイツクインツレもまた、その感覚の中にいる犬だ。死者を導く犬でありながら、いまを生きる家庭犬でもある。神話の中にいながら、現代のフットボールクラブの名前にもなる。

クラブ・ティフアナの物語は、まさにその重なりの上にある。2007年創設の若いクラブ。近代的なスタジアム。国境の街のスピード。そこに、古代メキシコの犬の名前が置かれる。時代がばらばらなのに、不思議と矛盾しない。むしろ、その混ざり方こそがメキシコらしい。

ティフアナは、境界の街だ。国境は線であると同時に、混ざり合う場所でもある。行く人、戻る人、働く人、応援する人。そこで生まれたクラブが、ショロスという名を持つことは、ただのデザインではない。自分たちはどこの街のクラブなのか。どの文化に根を張るのか。その問いに、犬の名前で答えている。

たぶん、名前にはそういう力がある。何を名乗るかは、何を忘れたくないかに近い。クラブ・ティフアナは、国境の街で、メキシコの古い犬の名前を名乗った。それは、新しいクラブが古い記憶をまとった瞬間だった。

犬の名前で、街は応援する

試合の日、サポーターは選手の名前を叫ぶ。勝利を願い、敗戦に怒り、次の週末を待つ。それはどの国でも変わらないフットボールの風景だ。でもティフアナで「ショロス」と呼ぶとき、その声はクラブだけでなく、犬を呼んでいる。古い犬を、街の犬を、神話からスタジアムまで歩いてきた犬を呼んでいる。

犬は、ピッチに迷い込んだのではない。保護犬として入場したのでもない。選手に抱き上げられ、ニュース映像の中で愛されたのでもない。メキシコ編の犬は、もっと最初からそこにいた。クラブが生まれるとき、名前として選ばれ、エンブレムとして掲げられ、スタジアムの熱の中で何度も呼ばれてきた。

だからショロスの物語は、犬とサッカーの話でありながら、名前の話でもある。クラブの名前は、犬だった。けれどそれは、かわいらしい偶然ではない。国境の街が、自分の根を確かめるために選んだ名前だった。

犬は、ゴール裏にいる。けれどこの街では、その前に、クラブの名前の中にいる。

連載「犬は、ゴール裏にいる。」——ワールドカップの夏、各国の犬とフットボールをめぐる。

Footnotes

  1. Historia | Club Tijuana Xoloitzcuintles de Caliente 2 3

  2. Xoloitzcuintli Dog Breed Information | American Kennel Club

  3. ショロイツクインツレ | 一般社団法人 ジャパンケネルクラブ