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雨と眠りのプレイリスト ―― 彼の耳のことを、ちょっと考えながら

部屋に流す音は、私たちのためだけのものじゃない。隣で眠る彼の耳のことを考えながら選ぶ、6月の低音量プレイリスト。

雨と眠りのプレイリスト

Anna Khromova via Unsplash

部屋に流す音は、私たちのためだけのものじゃない。 隣で眠る彼の耳にも、ちゃんと届いている。

雨の日、窓を閉めて部屋にこもる時間が増える。 そうなると気になってくるのが、家の中の「音」だ。

テレビをつけっぱなしにするのか。 配信プレイリストを流すのか。 それともただ、雨音だけを聞いて過ごすのか。

選択肢はいくつもあるけれど、その音を聞いているのは、私たちだけじゃない。 ソファでうとうとしている彼の耳にも、ちゃんと届いている。

彼の耳のこと、少しだけ

犬の聴覚は、人間と比べてかなり広い。 人間の可聴域が約20〜20,000Hzなのに対して、犬は65〜50,000Hz。 高音域が圧倒的に広く、私たちには聞こえない音まで届いている。

さらに、犬は人間より13〜20dB小さな音まで拾えるらしい。 私たちが「静か」と感じている部屋でも、彼にとってはいろんな音が鳴っている。

そしてもうひとつ ―― あまり知られていない事実。 犬は同時に鳴る2つの音の聞き分けが苦手だ。 可聴域が広いぶん、複数の音が重なると処理が追いつかない。

つまり、私たちが「BGMにちょうどいい」と思う賑やかな音楽は、彼にとっては少し情報が多すぎる。 歌詞、メロディ、複数の楽器、ベースとドラム ―― それが全部、同じ強さで耳に入ってくる。

それを知ってから、家の中で流す音楽が変わった。

雨の日の、低音量プレイリスト

選ぶ基準は、シンプルであること。 楽器の数が少なく、メロディが穏やかで、急に音量が変わらないもの。 そして、雨音と喧嘩しない種類の音。

「アンビエントだけ」だと優等生すぎて、すぐに飽きる。 ちょっとした陰りや、夢の中みたいな揺らぎ、古いレコードの埃っぽさ ―― そういう余白のある音楽の方が、雨の日の部屋には合う。

そういう視点で選んだ、6月のプレイリスト。

Françoise Hardy

フランソワーズ・アルディ。 1960年代のフレンチ・ポップを代表する女性シンガーソングライター。 ささやくような歌声と、シンプルなアコースティック編成。 雨の窓辺によく似合う、いちばん静かなシャンソン。 入口には『Tous les garçons et les filles』(1962)、もう少し深く沈みたい日には『La question』(1971)を。

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Broadcast

イギリスのバンド、ブロードキャスト。 1960年代のサントラ音楽と、レトロ・フューチャー的なエレクトロニクスを混ぜた、不思議な手触りのドリーミー・ポップ。 ヴォーカリスト、トリッシュ・キーナンの声が、雨の日の部屋に幽霊みたいに溶ける。 眠りに落ちる前なら『Haha Sound』(2003)、もしくは『The Noise Made by People』(2000)から。

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Cocteau Twins

スコットランドの伝説的ドリーム・ポップ・バンド。 エリザベス・フレイザーの声は、もはや言語というより楽器に近い。 意味を追わなくていいから、彼が眠っている部屋にちょうどいい。 雨の日には『Heaven or Las Vegas』(1990)、もう少し陰りが欲しい日には『Treasure』(1984)を。

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Nico

ヴェルヴェット・アンダーグラウンド出身の歌姫、ニコ。 低く、深く、揺るぎない声。 『Chelsea Girl』(1967)に収録されている『These Days』は、雨の午後に窓を眺める時間の伴奏として、これ以上ない一曲。 ちょっとした陰りが、部屋の湿度とちょうど釣り合う。

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Stereolab

フレンチ・ポップ、クラウトロック、ボサノヴァ、ラウンジ ―― ジャンルを横断しながら、いつも気だるくて、いつもおしゃれ。 彼が眠っている横で、ヴォリュームを絞って流したい一枚。 『Dots and Loops』(1997)、『Emperor Tomato Ketchup』(1996)から。

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環境音そのもの

実は、音楽を流さないのも選択肢。 雨音、川のせせらぎ、森の鳥の声 ―― そういう自然音は、犬にとっても落ち着く周波数帯が多いと言われている。 プレイリストに疲れたら、ただ窓を少し開けて雨音を聴くのもいい。 何もしない時間が、いちばん贅沢だったりする。

選び方のコツ

ボリュームは、自分が「ちょっと小さいかな」と感じるくらいで。 彼の耳には、それでちょうどいい。

番外編:音と犬の、いい映画

音楽中心の記事だけれど、雨の日に観たい映画も少しだけ。 どれも「音の使い方が美しい」作品で、犬と一緒に静かに観るのに向いている。

『パターソン』(ジム・ジャームッシュ、2016)

ニュージャージーの小さな町、バスの運転手をしながら詩を書く男の、一週間の物語。 派手な事件は何も起こらない。 ただ、雨が降り、コーヒーが淹れられ、犬が散歩される。 そして、登場する英国ブルドッグの「マーヴィン」が圧倒的に味わい深い。 彼と一緒に観たい「ブルドッグ映画」の筆頭。

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『パリ、テキサス』(ヴィム・ヴェンダース、1984)

ライ・クーダーのスライドギターと、乾いた砂漠の風景。 台詞が極端に少なく、音と画だけで進んでいく作品。 雨の日に観るには、ちょっと逆説的だけれど、外と中の対比が際立つ。 彼が眠っている横で観たい、長い長いロードムービー。

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『コーダ あいのうた』(シアン・ヘダー、2021)

聴覚障害の家族と暮らす聴者の娘の物語。 「音がない世界」と「音がある世界」の境界を描く作品で、音の存在そのものを考えさせられる。 犬は出てこないけれど、聴覚というテーマで、ぜひ。

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雨と、音と、彼の眠り

雨の日に部屋でかける音は、彼の世界の一部になる。 それを忘れずに、選びたい。

低く、静かに、けれど少しだけ陰りのある音を、流す。 彼の眠りを邪魔せず、こちらの気分にも嘘がないもの。

その方が結局、私たちにとっても心地よかったりする。 ふたりで同じ静けさの中にいる、6月の午後。 それが今月の、ささやかな贅沢だ。

 

配信情報は2026年5月時点のもの。配信終了している場合があります。