好きなものを選ぶことが、どこかの犬の未来につながっている。LAUWという小さなブランドは、その仕組みをつくるために生まれた。背景にあったのは、一人の女性がオランダで見た風景と、日本で叶えたいと願った未来の話だった。
2022年のクリスマス、一つのブランドが静かに産声を上げた。名前は「LAUW(ラウー)」。『大型犬にもFashionを』そんなコンセプトを掲げた、犬とその家族のためのブランドだ。
大型犬向けの服が少ないから始まったブランド。そう説明することもできる。けれどLAUWの背景を辿っていくと、入口はもうひとつあったことが見えてくる。日本にいまも数多くいる、保護犬たちの存在。自分にできることは何だろう?その問いから、このブランドは始まっている。
オランダで、気づいたこと
2001年、サッカー選手・小野伸二さんの海外移籍に伴い、小野千恵子さんはオランダ・ロッテルダムへ渡った。1 異国での暮らしは、想像以上に孤独だったという。そんな日々のなかで家族になったのが、ジャック・ラッセル・テリアのショコラだった。
愛犬との散歩は、近所の人との会話を生み、知らない街を少しずつ自分の居場所へと変えていった。犬がいるだけで、人と人との距離が縮まる。その経験は、千恵子さんにとって大きな発見だった。
そしてもうひとつ。ヨーロッパでは、犬が驚くほど自然に人の暮らしの中にいた。カフェにも、公園にも、街角にも。犬がそこにいることを、誰も特別なことだと思っていない。人の社会のなかに犬が当たり前に存在している。その風景は、日本へ帰国したあとも、ずっと心に残り続けた。
コロナ禍で家にいる時間が増えた頃、小野家はバーニーズ・マウンテンドッグのラウエ(LAUWE)を迎える。続いて、行き場を失っていたスタンダードプードルのロームも家族になった。2
大型犬と暮らし始めて、すぐに気づいたことがある。小型犬向けの服は数え切れないほどあるのに、大型犬向けとなると選択肢が極端に少ない。機能性も、デザインも、妥協しなければならない。それなら、自分たちで作ろう。けれど千恵子さんの中には、服の不足とは別の、もっと深いところに届く問いがあった。
自分にできること
犬と暮らすなかで知ったのは、日本にはいまも多くの保護犬がいるという現実だった。3 自分にできることは何だろう。そう考えたとき、千恵子さんが思い描いたのは、特別な誰かだけのものではない、誰でも参加できるチャリティのかたちだった。
どんな人でも、どんな少額でも、犬たちの未来のために気持ちを寄せられる。小さな力でも、多くの人が集まれば大きな力になる。そんな優しい循環をつくれたら。たどり着いた答えは、シンプルだった。好きなものを選び、手に取る。その行為が、そのまま犬たちの未来につながっていく。そんな仕組みをつくりたい。それがLAUWの始まりだった。3
仕組みそのものは、気負わない。LAUWの売り上げの一部は、犬のために活動する団体や保護施設へと渡っていく。4 一頭では、いや一人では背負いきれないものを、買う人と少しずつ分かち合いながら。寄付の額を競うのではなく、買うことのなかに意味を静かに編み込む。それが、このブランドの選んだやり方だ。
可愛い、と心が動く。この子に似合いそう、と手が伸びる。その何気ない衝動が、そのまま参加になる。難しい決意も特別な覚悟もいらない。隣にいるこの子を想う気持ちが、そのまままだ見ぬ犬への気持ちに変わっていく。チャリティの入口はこんなにも日常の近くにあっていい。
市場には、すでに十分な数のアパレルがある。だからこそLAUWは、ただのファッションではなく、意味のあるものをつくりたいと考えてきた。その想いに技術で応えたのが、老舗の〈銀座田屋〉だった。3 大型犬の服が少ない、という最初の入口は、こうしてもっと大きな循環の一部になっていった。
ラウエがくれたもの
ブランド名は、愛犬ラウエ(LAUWE)の名前から最後のEを取ったもの。LAUWと書いて、ラウーと読む。
LAUWが誕生した2022年の冬。発売前の商品に、犬のイラストをあしらったネクタイがあった。5 千恵子さんはそれを伸二さんに手渡し、「どこかでつけてくれない?」とお願いしたという。
その後、伸二さんはFIFAワールドカップ・スペイン戦の解説で、そのネクタイを着用した。そして日本は勝利する。試合後、伸二さんはInstagramに「#スペインに勝利」「#縁起の良いネクタイ」と投稿した。6
日本中が歓喜したあの夜。LAUWは、ワールドカップとともに静かに船出した。
人が集まる場所
LAUWの話を聞いていると、不思議なことに気づく。犬のことを考える場所には、自然と人が集まってくる。
世田谷公園で開催されたPAWLIVEのイベントにも、さまざまな人が関わっていた。AS IS TO BE AND ART CAFEは場所をひらき、クリエイターは挿絵を描き、友人たちはそれぞれの得意なことで力を貸した。
けれど、それは大きな組織が作るプロジェクトには見えない。Instagramの発信も、POPUPの準備も、商品の企画も。ブランドの裏側にある多くの仕事を、千恵子さんは今も自分の手で積み重ねている。だからなのかもしれない。LAUWの周りに集まる人たちは、「協力者」というよりも、「この風景を一緒につくりたい人たち」に見える。
買うことが、誰かの犬の未来につながる。その小さな約束を真ん中に置いているからこそ、人は安心して手を伸ばせるのだろう。オランダでショコラが繋いでくれた縁。犬がいることで生まれる会話。人と人との距離が少し近づく時間。LAUWは、その体験の延長線上にある。大型犬の服を作ることから始まったブランドは、いつしか犬を中心に人が集まる場所になっていった。
LAUWが目指す風景
その輪は、ブランドだけに留まらなかった。千恵子さんは2025年、一般社団法人パウリブプラス(PAWLIVE+)を立ち上げる。7
保護犬支援や啓発活動、ペット防災イベント、地域コミュニティづくり、子どもたちのボランティア。活動の形はさまざまだが、その根底に流れている願いはひとつしかない。買い物を通じて始まった小さな循環が、ブランドの枠を越えて広がっていく——その先にあるのが、この社団法人だ。
犬がどこにいても自然な社会。犬と暮らす人だけのものではなく、犬と暮らしていない人にとっても、犬が身近な存在である社会。オランダで見た風景を、日本でも当たり前にしたい。その思いが、LAUWにもパウリブプラスにも通じている。
ラウエの名前をもらったブランドは、犬のための服を作っている。けれど本当に作ろうとしているのは、服だけではない。お気に入りの一着を、自分の隣にいるこの子へ。その小さな贈りものが、同じ空の下のどこかで、まだ家族を待つ犬の明日につながっていく。つくる人と買う人の区別を、循環はいつのまにか曖昧にしていく。犬がいて、人が集まり、会話が生まれる。誰かと犬が出会い、街との関係が少し変わる。そんな小さな風景をひとつずつ増やしていくこと。気づけば、あなたもその風景の一部になっている。LAUWという名前には、その願いが静かに込められている。
