執筆・編集:FRENCHEESE編集部
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十月の六時は、もう夜だ。九月にあれほど急いでいた夕暮れはここへ来てようやく落ち着いたらしく、今度は夜のほうが長居をするようになった。夏のあいだ持て余していたこの時間を、今年はフレンチブルドッグと一緒に使い切ってみようと思う。
【夜散歩】、解禁
真夏の夜散歩には、毎回ちょっとした審査があった。玄関先で気温と路面の熱を確かめ、暑さが残っていれば出発を見送る。鼻の短いフレブルは熱中症のリスクが高い。夜になったことだけでは、散歩に出る合図にならない。1
十月のある晩、その審査をすんなり通れる日が来る。ドアを開けると空気がひんやりしていて、足元のフレブルはこちらの合図を待たずに歩き出している。季節の変わり目に気づくのは、たいてい向こうのほうが早い。
読書の秋、ただし鼻で
秋の夜散歩は、とにかく進まない。昼間は素通りしていた電柱の根元も植え込みも、夜になると急に読みごたえのあるページに変わるらしい。フレブルは一ページごとに立ち止まり、気になる箇所は二度読む。
待っているあいだ、こちらも手持ち無沙汰に夜の匂いを嗅いでみる。角の家の金木犀が咲いていたことに気づいたのは、そうやって立ち止まらされた晩だった。毎日通っている道なのに、一人で歩いていたら、たぶん花が散るまで知らなかった。
Trick or Treat? 選ぶのは、Treatだけ
ハロウィンの時期によく見かけるtreatという単語には、おやつのほかに「もてなす」という意味がある。2おやつを奮発するのも仮装で遊ぶのもいいけれど、秋の夜にフレブルがいちばん喜ぶもてなしは、たぶん散歩の終わりを急かさないことだ。帰りたくなさそうな顔をしていたら、もう一本先の角まで行く。それだけで、夜はずいぶん上等になる。
ただ、暗い道ではフレブルの姿が車や自転車から見えにくい。首元か足元に小さな灯りをひとつ付けておくのが、夜散歩のドレスコードだ。3
ハロウィンの主役は、鼻
十月三十一日の夜は、住宅街もいつもより少し騒がしい。玄関先にかぼちゃのランタンが灯り、お菓子の袋を提げた子どもたちとすれ違う。そんな晩でもフレブルは仮装にもお菓子にも目をくれず、電柱の根元を熱心に読んでいる。この街でいちばんハロウィンに興味がないのは、たぶんうちの一頭だ。
夏には持て余していた夜が、気づけば一日のなかでいちばん楽しみな時間になっていた。長い夜はまだ始まったばかりで、今年はそれをどうもてなそうか、歩きながら考えている。
