上映室を思わせる空間でノートに顎を預けるイングリッシュ・ブルドッグ。映画の世界を着想にしたイメージ

AI生成による編集イメージ

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ポストを傾ける犬 — 映画『パターソン』と、毎晩の散歩

詩を書くバス運転手と、毎晩の散歩に付き合うブルドッグ。長い秋の夜に、隣の子と観たい一本。

執筆・編集:FRENCHEESE編集部

公開

毎晩、同じ時間に犬と散歩に出る。ジム・ジャームッシュの映画『パターソン』は、そんな繰り返しだけでできている。詩を書くバス運転手と、その妻と、一匹のイングリッシュ・ブルドッグの一週間。夜が長くなったこの季節に、隣でまどろむ子と一緒に観たい。

『パターソン』(2016年/アメリカ)監督・脚本:ジム・ジャームッシュ 出演:アダム・ドライバー、ゴルシフテ・ファラハニ1

同じ一週間、同じ夜の散歩

舞台はニュージャージー州の小さな街、パターソン。主人公の名前も、街と同じパターソンという。演じるのはアダム・ドライバー。彼は毎朝同じ時間に起きて、市バスを運転し、昼休みにはノートに詩を書く。家に帰れば、ゴルシフテ・ファラハニ演じる妻のローラが、毎日新しい何かに夢中になっている。1

そして夜、パターソンはブルドッグのマーヴィンを連れて散歩に出る。行き先は決まっていて、なじみのバーに寄り、マーヴィンを店の外につないで一杯だけ飲む。1この映画は月曜から次の月曜まで、ほとんど同じ一日を繰り返しながら進んでいく。大きな事件は起きないのに、見終わると、自分の毎日の散歩道が少し違って見えてくる。

マーヴィンは、ただの脇役じゃない

この映画のマーヴィンは、飼い犬という言葉で片づけられない存在感を放っている。垂れた目でじっと主人を見つめ、低いうなり声ひとつで不満を伝える。家の前の郵便ポストがなぜか毎日傾いている、という小さな謎にも、どうやら彼が関わっているらしい。2

パターソンとマーヴィンの関係は、決して仲良しのひと言では済まない。ローラには甘えるのに、パターソンにはどこか張り合うような目を向ける。それでも毎晩、二人は並んで夜道を歩く。好きとか嫌いとかを超えたところで、ただ隣にいる。犬と暮らしている人なら、その距離感に覚えがあるはずだ。物語の終盤、マーヴィンはある出来事でパターソンの毎日を揺さぶる。何が起きるかは、観てのお楽しみに。

ネリーのこと

マーヴィンを演じたのは、ネリーというメスのイングリッシュ・ブルドッグだった。2008年、生後十か月でニューヨークの保護団体からウィリアム・バーロニ夫妻に迎えられた。舞台『キューティ・ブロンド』の巡回公演などで七百回以上の出演を重ね、デモ映像をきっかけに『パターソン』へ。映画の前から、舞台経験のある犬だった。3

2016年のカンヌ国際映画祭で、ネリーは優れた演技を見せた犬に贈られるパルム・ドッグ賞を受けた。ただ、その数か月前に彼女はこの世を去っていて、賞は史上初の没後受賞となった。授賞式に出たプロデューサーは、ネリーを偲ぶなら、犬を買うのではなく保護犬を迎えてほしいと呼びかけたという。4

スクリーンの中のマーヴィンは、今もパターソンの隣で夜道を歩いている。旅立った犬が映画の中で毎晩散歩に出続けていると思うと、この静かな作品が少し違って見えてくる。

長い夜に観る

『パターソン』は、観ながら眠くなってもかまわない種類の映画だと思う。ソファの定位置で丸くなっている子の背中に手を置いて、画面の中の夜散歩を一緒に眺める。途中で彼が寝息を立てはじめたら、それもまた、この映画のいい観方だ。

見終わったら、たぶん少し散歩に出たくなる。今夜はどの道を歩こうか。

Footnotes

  1. Festival de Cannes:PATERSON。作品情報と公式あらすじ。 ↩ ↩2 ↩3

  2. Film Comment:Jim Jarmusch on Paterson and Gimme Danger(監督インタビュー) ↩

  3. Humane Society of New York:Nellie’s Story ↩

  4. Palm Dog:Edition 2016 ↩