執筆・編集:FRENCHEESE編集部
公開
隣で寝ている彼が、ふいに片耳だけを持ち上げる。私には何も聞こえない。ESSAYで、犬は人に聞こえない高い音まで拾うと書いた。では、その耳の向こうにはどんな世界が広がっているのか。今月、彼の隣で開きたいのは、その問いにまっすぐ向き合った一冊だ。
『犬から見た世界 その目で耳で鼻で感じていること』アレクサンドラ・ホロウィッツ著、竹内和世訳(白揚社、2012年、定価2,750円・税込)1
犬の内側に入り込む本
著者のアレクサンドラ・ホロウィッツは、犬の認知行動学の研究で博士号を取り、コロンビア大学バーナード・カレッジで心理学を教えながら、犬の行動の研究を続けてきた人だ。1原題は『Inside of a Dog』。犬であるとはどういうことかを問い、犬の内側に入り込むことで見えてくる感覚の世界を描いている。1
研究者の本でありながら、著者自身の犬が何度も登場する。科学の言葉で説明できることと、一緒に暮らす人が肌で知っていることの両方を、同じページの上で扱おうとしている本だ。
目で、耳で、鼻で
本の最初の章は「犬の環世界」。環世界とは、生きものがそれぞれ自分の感覚でとらえている世界のことだ。同じ公園を歩いていても、犬と人とでは、見えているもの、聞こえているもの、匂っているものが違う。目次には「嗅ぐ」「もの言わぬ…」「犬の目」と、感覚に沿った章が並ぶ。1
今号のテーマに引き寄せるなら、耳の話だ。犬は人には聞こえない高い音まで拾う。2落ち葉を踏む音も、おやつの袋がこすれる音も、彼には私とは違う細かさで届いている。GUIDEで紹介した落ち葉の道も、彼の耳で聞けば、きっと別の場所になる。
隣で開きたい理由
目次の後半には「絆を作り上げるもの」「朝の大事な時間」と続き、本は「おわりに―わたしの犬」で閉じる。1犬の感覚を外から観察する本でありながら、最後は著者自身の犬の話に戻ってくる構成になっている。
だからこの本は、犬の隣で読むのがいいと思う。ページをめくる手を止めて、隣で耳を動かしている彼を見る。書かれていることと目の前の彼を見比べながら読む時間は、それ自体が彼の世界を少しだけのぞく練習になる。
次は、鼻の話
同じ著者には『犬であるとはどういうことか その鼻が教える匂いの世界』(白揚社)という本もある。こちらは嗅覚に絞った一冊で、著者自身が犬のように嗅ぎ回りながら、匂いで世界を知るとはどういうことかを探っている。3耳の次は鼻へ。冬の散歩がまた少し違って感じられるかもしれない。
本を閉じて散歩に出たら、彼が耳を向ける方向を一緒に向いてみる。何も聞こえなくても、そこには確かに、彼の世界がある。今日はどんな音が鳴っているだろうか。
